Neutrino beamlineニュートリノビームライン
T2K実験のような実験を行うためには、大強度で高品質なニュートリノビームを作ることが重要になります。KEKニュートリノグループは、国内外の大学・研究期間との協力のもと、茨城県東海村の大強度陽子加速器施設(J-PARC)のニュー トリノ実験施設を建設し、世界最大強度のニュートリノビーム生成を行っています。また、その性能向上がメインの研究テーマの一つです。
ニュートリノビームラインの概要
J-PARCのメインリング加速器(MR)で30GeVまで加速された陽子を取り出して輸送し、ニュートリノ生成標的に打ち込んで、ニュートリノビームを生成します。以下にニュートリノビームを作っている施設のそれぞれのコンポーネントを紹介します。
1次ビームライン
MRから取り出された陽子は、超伝導電磁石により神岡方向に約90度方向を変えながら、ニュートリノを生成する標的まで輸送されます。超伝導電磁石システム(写真)は、長さ3.3m、二極磁場最大2.6テスラ、四極磁場勾配最大18.6テスラ/mの二極/四極複合磁場の超伝導電磁石を28台並べて構成されます。またこれらの磁石を超伝導状態に保つために、絶対温度4.5度で2キロワットの冷凍能力を持つヘリウム冷凍機が設置されています。
MRとの分岐部とニュートリノ生成標的に打ち込む手前の区間(最終収束部)には常伝導電磁石システムが使われています。
陽子ビームモニター
1次ビームラインには、ビームの強度・位置・形状をモニターする多数のビームモニター装置(CT・ESM・SSEM・BLM)が設置され、メインリングから取り出される陽子ビームを漏れなく標的まで送り込みます。
ニュートリノ生成標的
標的はグラファイト製の長さ90cm、直径2.6cmの円柱です。陽子を標的に衝突させることで、パイやK中間子を大量に生成します。このパイやK中間子が飛行中に自然に崩壊してニュートリノビームができます。標的は、チタン合金の容器に入っています。グラファイトとチタン容器の隙間にヘリウムガスを流して、発生する熱を冷却します。運転時、中心部の温度は約700度にもなります。
電磁ホーン
電磁ホーンはアルミニウムの管が二重になった装置で、32万アンペアのパルス電流により2テスラの磁場を内外管に発生させ、パイやK中間子を前方に収束させます。3台の電磁ホーンが使われます。
ターゲットステーション
ターゲットステーションの内部には、ディケイボリュームと一体の体積1500m3の巨大なヘリウム容器が設置されています。3台の電磁ホーン、ニュートリノ生成標的、またホーンを保護するためのバッフルなどがその中に設置されています。これらは放射線を遮蔽する鉄やコンクリートによって厳重に覆われています。また、ヘリウム容器の中はヘリウムガスで充填されています。
ディケイボリュームとビームダンプ
電磁ホーンで前方で収束されたパイやK中間子は、地下に設置されたディケイボリュームと呼ばれるトンネルの中で崩壊してニュートリノビームを作ります。ディケイボリュームは約6mの厚さのコンクリートで覆われたトンネルで内部に2次粒子により発生する熱を冷却するために水冷配管が敷き詰められています。
また、ディケイボリュームの最下流部には、グラファイトブロックを用いたビームダンプが設置され、標的で反応しなかった陽子等を吸収し、発生する熱は放射線を遮断します。
ミューオンモニター
ミューオンモニターは、ニュートリノとともに生成されたミュー粒子を測定することにより、間接的にニュートリノビームの方向および強度の安定性を監視するための測定器です。
データ収集系・インターロックシステム
ビームモニターやミュオンモニターなどの信号は、加速器からの取り出しに同期したデータ収集システムで記録されます。このときに、GPSを用いた時刻測定も行い、いつJ-PARCでニュートリノビームを生成したかを記録します。この情報を後置検出器であるスーパーカミオカンデにリアルタイムで送ります。スーパーカミオカンデでは、J-PARCからのニュートリノが届くタイミングでJ-PARCからのニュートリノ事象のデータを記録します。
また、大強度なビームを取り扱う施設として、安全に運転できるようにさまざまなインターロックを実装しています。
今後の大強度運転にむけたアップグレード
ニュートリノビームラインの運転は2010年から安定してできています。今後の運転では、現在(2022年)より約2.5倍の強度となる1.3MWのビームを受け入れて、ニュートリノビームの強度をあげていく予定です。このために、ビームラインのいろいろな機器の増強作業が現在進んでいます。
KEKニュートリノグループでは、ニュートリノビームラインに関係したいくつか重要な研究活動をしています。詳しくは各研究のページをみてください。